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グランプリ受賞

作品紹介

刻んだシワの一本にも、人生のプライド!
女性たちの性エネルギーが再起動する。
浜野佐知監督作品

−キャスト−
吉行和子 ミッキーカーチス 正司歌江
白川和子 中原早苗 原知佐子 大方斐紗子
目黒幸子

−原作−
桃谷方子
『百合祭』
(北海道新聞文学賞受賞作 講談社刊)

−製作−
株式会社 旦々舎
企画:鈴木佐知子 脚本:山崎邦紀 撮影:小山田勝治
照明:上妻敏厚 美術:奥津徹夫 音楽:吉岡しげ美
編集:金子尚樹

−後援−
株式会社 北海道新聞社/財団法人北海道文学館

−助成−
日本芸術文化振興会芸術団体等活動基盤整備事業


老熟の性愛はタブーか?
 「老いらくの恋」は、時に微笑ましく受け入れられます。しかし、老年の性愛となると「老醜」「老残」といったイメージが強く、はっきりと忌避、封印されてきました。なかでも女性は、介護やアルツハイマーなど「老人問題」の対象となることが多く、主体的な性愛など、タブーと言っていいほど描かれることはありませんでした。
 老年女性の性愛を、どこか辛らつながら、明るく肯定的に描き出した小説が、この映画の原作『百合祭』です。北海道在住の作家、桃谷方子(ももたに・ほうこ)さんの作品で、1999年の北海道新聞文学賞を受賞し、2000年に講談社から刊行されました。
 登場するのは、69歳から91歳の7人の女性たちで、彼女たちが住むレトロなアパートに、ダンディなお爺さんが引っ越してきたところから、てんやわんやの騒動が巻き起こります。このお爺さん、「男は黙って・・・・・・」タイプの典型的な日本男性と180度異なり、華麗なレトリックで彼女たちを魅了します。
 「花のように艶やかな女性たちに囲まれて、男冥利に尽きます」「宮野さんは、笑顔がいいねえ。菩薩さまのようだねえ」


男女の平均寿命のギャップ
 この調子のいいお爺さんに、みんなが惹き付けられますが、その背景に、実は青壮年期の恋愛とは環境がまったく異なる、老年の特殊事情がありました。「この年になると、男が少なくなるんだもの、早く死んじゃって、さ」
「生きていたって、わたしたちにセックスアピールしてくれるような男でなけりゃ、ね」
 なんという端的な嘆きでしょう。男女の平均寿命の差という即物的な要因によって、高齢女性はパートナーと死に別れ、孤独を余儀なくされているのです。さらに、「お婆さん」にセックスアピールする日本男性となると、絶望的に少ないことでしょう。


エイジング・ハラスメントを笑い飛ばす
 彼女たちの一人は言います。「年をとっていいことなんて、ひとつもありませんよ。年をとった、ということだけで、ないがしろにされるんですから」。年令を理由とした差別、いやがらせが「エイジズム」「エイジング・ハラスメント」ですが、実際に年をとって当事者にならないと、見えにくい壁です。
 この映画の老女たちは、それを笑い飛ばすかのように、果敢でエネルギーに満ちています。「可愛いお婆ちゃん」が理想的な老人像のように語られることがありますが、アパートの住人たちは「お婆ちゃん」というイメージの中に閉塞していません。エッチなお爺さんによって、性愛の可能性を示されると、それまでの殻を敢然と打ち破り、行動します。
 遠くない将来に「死」が控えている現実が、飾りを捨てた単刀直入の行動に拍車をかけるのかも知れません。高齢者差別・<女性>というジェンダーに対する抑圧、という二重のカセに封印されてきた老女の性エネルギーが、生き生きと再起動する様子を、この映画は描きます。


ストーリー
 73歳の宮野理恵さん(吉行和子)をはじめ、老嬢ばかりが住むレトロな洋館の毬子(まりこ)アパートに、ダンディで陽気な75歳の三好さん(ミッキーカーチス)が引っ越してきた。世間からは「お婆さん」としてしか扱われない彼女たちを、立派なレディ扱いして、華やかなリップサービス、時には手を握るなどのソフトタッチも試みる。 これには、長い苦難の人生を歩んできた彼女たちも、大家の奥さん(正司歌江)を先頭に、すっかり魅惑され、甘い蜜に群がる蝶々の群れのよう。三好さんは、老嬢たちのサンクチュアリのプリンス、光源氏として、一時期君臨する。宮野さんもまた、すっかり忘れていた体の奥の甘美な感覚を取り戻し、三好さんとセクシュアルな接触を持った。若い頃のセックスとは様相が異なるが、体を重ねた時の柔らかな感触に陶然となる。
 しかし、次第に三好さんの意外な過去と実像が明かになってくる。そして誰もが「自分とだけ」と思い込んでいたのに、彼はとんだプレイボーイだった。すべてが明白になった時、彼女たちは驚き、怒るが、いつまでも「騙された!」などと恨み言は言わない。三好さんに触発されるなかで、社会が押しつけ、自分たちも受け入れてきた「お婆さん」の役割やイメージを振り払い、自らの内の眠れる欲望に向かい合ったのだ。そして、いささかの躊躇もなく、果敢に<生き直し>を開始する。なかでも宮野さんと横田さん(白川和子)には、意外な展開が待っていた・・・・・・。


出演者のコメント

百合祭に出演して
●吉行和子(宮野理恵)
「『百合祭』との出合いは、私にとって素敵な出来事だった。廿一世紀になったからって、何にも変ったことなんてない、と思っていたのに、何と、新しい年と共に、こんな面白い役がまい込んで来たのだ。宮野さん(私の役)が、恋に胸をときめかすのと同じように、私も毎日ときめいて撮影にのぞんだ。浜野監督のパワーは現場に充ち溢れ、私たち出演者は感染してしまって、妙に元気になり、撮影中も、待ち時間もテンション高く過した。『楽しかった、十年後に“その後の百合祭”って映画を創りたいわね』と私たちは別れを惜しんで、そんな事まで口ばしってしまった」
●ミッキーカーチス(三好輝治郎)
「久しぶりに面白い現場だった。なんかずぅーと音楽のセッションを演ってるみたいだった。名女優に取り囲まれて濃いいキャラの中の2週間、現場の待ち時間もみんなあのまんま、私は2キロ痩せた。監督(サチ)は本当に面白い原作を見つけた思う。タイムリーだし、ウィットもあるし、観客が結構年齢関係なく楽しんでいただけるん じゃあないかなぁー。 どうぞこの『百合祭』チームをおたのしみください」
●正司歌江(毬子梅香)
「素晴らしい監督、素晴らしい共演者、そして素晴らしい作品に恵まれ、その作品に出演させていただき、感動しております。未熟者ですが一生懸命頑張りましたので、ぜひ観てください」
●白川和子(横田レナ子)
「久々に色っぽい役をいただき、不安と期待のなかでの撮影でしたが、“我ながらまだまだ捨てたものではない”これが実感でした。幾つになっても女性であることを意識して生き抜かなくちゃ……」
●中原早苗(里山照子)
「とても楽しかった。出演者もスタッフも素敵でした。幸せでした。この“やまい” が残りそうで困ってます」
●原知佐子(並木敦子)
「イングリッド・バーグマンを“秋のソナタ”でみた時、女優は、年をとることを恐れることはないと思った。娘と語り合った場面の素顔が、本当に美しかった。ジャンヌ・モローは、云っていた。“年をとることは素敵なことです。神様がここ迄、生かしてくれたのですから…”と。そして、彼女が年下の男が好きなオペラ歌手を演じた時のせりふ、“年をとることは素晴らしいわ、だって、相手の数がどんどんふえてゆくんですもの”。重ねる年にエールを…」
●大方斐紗子(北川よし)
「大先輩である役者さんたちの愉しいお喋りに、笑って、笑って…。お陰で、自由に、のびのびと演じることが出来ました。監督さんの厳しいお声がいい按配に緩和現象を生みだしたといえましょうか。参加させていただけて、倖せでした。この91歳の北川さんという役が堪らなく可笑しくって、役作りはワクワクしっぱなしでした。こんなに可笑しい人は、どんなに哀しいことが多かっただろうということだけを想像しました。それから先は“道化”に近い表現を目指しました。哀しさも、狡さも、歓びも、そして意志力も、あらゆるものが道化の表現の中に、美しく出せたらいいナアと思いました。映画はとても力強いものを感じさせてくれました。説明的な部分がちょっと不満でしたが。文学作品と映像作品の大きな違いをみたかったのです」
●目黒幸子(戸塚ネネ)
「『百合祭』原作を読んで、老年と呼ばれる人達(自分もそのひとり)のしたたかさと初々しさに笑ってしまった。シナリオを読み、超ロングショットの視点の加えられていることに、ますます興味がつのった。百合の花言葉は純潔。或は、貞節と美徳のシンボルとされるとか。−老人のエロスと百合の花−。フーム。素敵な作品にチャンスを頂いて幸せ! 皆さん、ゆっくりお楽しみ下さいね」