クロワッサン「女の新聞」

浜野佐知インタヴュー


閉経を迎えた女はエロスと無縁の存在=かわいいおばあちゃんであれ、と強いる社会や文化に、笑いと毒を効かせた映画『百合祭』を掲げて颯爽と対峙してみせた映画監督・浜野佐知さん。制作から16年たった今なお、上映会が催されるたび会場は多くの女性で埋め尽くされるほどの人気だ。なぜこの作品が大人の女性の心を引き続けるのか。シニア女性と性愛のリアルについて聞いた。
なぜ、の答えは簡単。16年経っても日本社会は男性優位のオトコジャパンだから。さらに、この国は世界有数の超高齢社会でありながら、高齢者への差別的まなざしが変わらないから。女+高齢、二重の差別に直面する人は年々増えるわけで彼女たちが自分のこととして観てくれるのだと思います

20歳そこそこで映画の世界に飛び込み、23歳で監督デビュー。以来おもにピンク映画(大手にっかつのロマンポルノとは一線を画した独立プロが制作・配給する低予算ポルノ映画)畑で、これまで400本近くを手がけてきた。
差別されがちな分野ですが、女性の性を扱いながら女性視点の作品がほとんどなかった。私がデビューした当時、ピンク映画に限らず監督はほぼ男性で彼らの視点でしか女が描かれない。女がレイプされて喜ぶか! という声さえ無視された。女の体や心はそうではないと声を上げ『女の性を女自身の手に取り戻す』ことをライフワークにしようと決めました

30代では30代の、40代では40代の自らのリアルを作品に重ねながら撮り続け、50歳を過ぎて大人の女の性をきちんと撮りたいと切実に思い始めた時に桃谷方子さんの小説『百合祭』に出会った。
69歳から91歳までの『おばあさん』の性愛がテーマ。一読してこれだと思い、すぐにキャスティングに着手しました

吉行和子、白川和子、原知佐子らの女優陣は過去に仕事をしたり、浜野さんが敬愛する人たちで、テーマがテーマだけに不安もあったが出演交渉は難なく進行したそう。
とくに吉行さんは『この年になると母、祖母、姑など誰かの○○役がほとんど。60歳を超えた一人の成熟した女性としてきちんと扱われず面白くないと思ってたから、こんなステキな役なら是非』と。男性役は熟考を重ねてミッキー・カーチスさんに。初対面で出演交渉した私のために自然な仕草で椅子を引いてくれ『私の役は危ないフェミニストですね』とおっしゃった。その一言で決まりでした

かくも才能と熱意が結集された作品でありながら、完成後4年間も国内上映はかなわなかった。
上映を決めるのは映画館主でほぼ男性。『誰がババアのセックスなんて観たいか』というわけです

国内事情とは裏腹に、作品はトリノ国際女性映画祭準グランプリなど著名な賞を次々受賞。凱旋上映された日本を含め、世界38カ国、56都市で上映された。
性は性行為そのものではなく、つまりバイアグラを使わないと成り立たないようなものではなく、人と人をつなぐ大切なコミュニケーションの一つです。加齢とともにいわゆる性機能は落ちても、手をつないだり添い寝するなかにも深いエロスがある。世界で評価された点もそこだったと思います

性愛を通じ、女性が自己に正直に生きようとする姿も新鮮だった。
他者を支える役割を強いられてきた女性が解放されるには、性的に自由になることが最も有効です

女盛りは還暦過ぎから。楽しんで! そんなエールに満ちている。